メンズエステの歴史 第九章【未来記】〜中編〜

[2022年1月16日]

 

つづきでございます……

1991年、宇宙空間の条件に応えられる素材「カーボンナノチューブ」が日本で発見されました。
これを機に宇宙エレベーターの議論が加速され、2024年からスペースX社を中心に宇宙事業が活性化され、現代では全世界で4機設置。

アメリカはテキサス州ヒューストン、ユーラシア大陸ではゴビ砂漠、そしてオーストラリア大陸のグレートビクトリア砂漠と、安全に考慮した場所に設置されましたが、日本では初めて都市部に建設されたのでございます。

宇宙エレベーターはロケットに比べ、運搬効率が良く、経済的で環境への影響が少ない輸送手段として始動しました。
数年後には人間やヒューマノイドの行き来が可能になり、船外活動の宇宙服をはじめ、それに付随する製品の需要が高まりました。

海上都市から伸びる宇宙エレベーターは月面と繋がり、初の旅客用として建設されました。
火星に住居を建設するMarshaプロジェクトは現在も進行中であるため、その他3機の宇宙エレベーターは火星と繋ぎ、工業用として稼働しているのでございます。

Marshaは自律性とハイパーローカリゼーションの原則に基づいて機能しており、宇宙エレベーターで運ばれますと、そこで利用可能な材料を用いた建設が行われ、人間のクルーが到着する前に居住環境を整えるのでございます。

建設エンジニアは地球からも操作できるため、プロジェクトは自立して行われていますが、常時10名は現地で監査を行なっています。

火星の大気には二酸化炭素があり、そして地表や地下に水があることが数年前に発見されました。
そこで、まず水を電気分解して水素と酸素を取り出し、そのうち水素を二酸化炭素と高温・高圧状態に置き、金属触媒と反応させることで水とメタンが得られるのでございます。

ガスコンロをひねると出てくる都市ガスの90%以上はメタンであり、地球上でも身近に存在する物質です。
燃料としてのメタンと水が存在するのであれば、と私たち人間は火星移住に希望を広げているのでございます。

月への旅客エレベーターは、本格的な火星への移住の前に、宇宙空間の楽しみ方や、真空への恐怖心を取り除こうという施策なのでございましょう。

私の幼少期に比べて宇宙空間が身近に感じられるのは、報道や映画やアニメーションの他、定期的に脳内チップにアクセスされる宇宙情報などの結果であることは、明確でございます。

その昔、人類は「定住者」ではなく住む場所を自由に選ぶ「遊動者」として生きていました。
それが劇的に変化したのはおよそ1万年前と言われています。

ある時から人類の社会は、逃げる社会から逃げない社会へ、あるいは、逃げられる社会から逃げられない社会へと、生き方の基本戦略を大きく変えたのでございます。

霊長類が長い進化史を通じて採用してきた遊動生活の伝統は、その一員として生まれた人類にもまた長く長く受け継がれておりました。

定住することもなく、大きな社会を作ることもなく、稀薄な人口密度を維持し、環境を荒廃することも汚物にまみれることもなく、人類は出現してから数百万年を生き続けてきたのであります。

ですが、今、私たちが生きる社会は、膨大な人口をかかえながら、不快であったとしても、危険が近づいたとしても、頑として逃げ出そうとはしないのでございます。
生きるためにこそ逃げる遊動者の知恵は、この社会ではもはや顧みられることもございません。

地震や噴火、津波や大洪水といった自然災害を、「遊動者」は身軽に移動することでかわす術を心得ていましたが、私達は「定住」という言葉が示す通りあくまで留まろうとしてしまいます。

これは物理的に、というより心理的にでございます。
住居というストックが象徴的ですが、所有という概念に根差した固定的な社会があるからでございます。

この頃「核戦争で地球環境は激変」
「2100年代に新生物Pが出現する」
「『彼』そして彼の次に現れる恐怖の男」
「地球リセット計画」など、衝撃の「予言」が次々と明らかになりました。

さらに「日本は宇宙人情報が50年遅れている」ことが指摘され、今ある常識にとらわれていてはならないと、意識を改めるよう世界各国から警告を受けたのでございます。

 

私が帰宅したのは、無人の軽トラックが夕陽を背に、大量のトウモロコシを載せて自宅に到着する頃でございました。
農作業を終えた曾祖父は私の姿を見るや否や
「久しぶりにお出かけしましょう」
と言い、車庫を指差しました。

旧日産の180SXタイプIIIに乗り込むと、心地よいエンジン音に心が包まれ躍動感を与えてくれます。
カギを差し込んでエンジンをかける。それが当たり前だった時代のスポーツカーらしいです。
曾祖父はこの車に乗ると、いつも昔の話をしてくれました。

110πのマフラーに変えて…
エアフローを入れたからギアを変えるたびに…
コンピュータを入れて…
FR車なのでドリフトしやすくて…
幕張のゼロヨンで…

よくわからない車の話に空返事をしていると、曾祖父は突然つぶやきました。
「メンズエステの話の方がいいかの?」

爆音を鳴らし、地下都市道路のエレベーターまでたどり着くと、地下トンネルまで運ばれ、磁気レールで他の車と合流することになりました。

2018年12月に試験的に作られた地下トンネル。
当時、長さは3km程との話でございます。
車の渋滞を逃れることがきっかけで作られたようで、現在は全世界にこの地下トンネルが張り巡らされています。

磁気レールに載せられた車は時速200kmで移動可能で、目的地までは自動運転となるのでございます。
曾祖父の旧車にも自動運転の装備がされているのは「シャケンが通らないから」との理由でございました。

今夜の目的地は海上都市「グリーン・フロート」。
一瞬ハッとしましたが、曾祖父は昔話を続けるのでございます。
徐々にメンズエステの話に変わっていくので、私は耳を傾けはじめてしまいました。

「2020年ごろ、当時の新型ウイルスが流行りましてね。その時、世界的なマスク不足により買占めが起こり、薬局やスーパーの棚が空っぽになったのでございます」

40年前にそんなことがあったのかという関心と、自給自足生活のため、滅多に行かないスーパーを懐かしく感じてしまいました。

「その年からマスクをつけることが10年以上続き、生活必需品となったのでございます。各社、デザイン性や機能性、耐久性での競争はありましたが、違う問題も発生していたのでございます」

曾祖父は話を続けました。

「それは、他人の口を見たことがない子どもが増えたことでございます。その子どもたちが中学生になる頃、女子生徒の唇が見たいがために「マスクめくり」なるものも増えたのでございます。スカートめくりではなく、マスクでございます。思春期真っ只中の男子には魅力的だったのでしょう。マスクから口をチラ見せする動画が配信されたり、フルヌードリップスという有料動画もありました」

今は鼻や口の周りにスプレーするだけで、空気中に浮遊するウィルスやバクテリア、ニオイなどを包み込み、PCO技術という光触媒で有機物を水とCO2に分解して蒸発させていますが、2030年ごろはそんなことがあったらしい……

「そうなりますと唇を見たい男性は、歓楽街に広がっていきました。マスクをしながら施術するメンズエステ店に「ノーマスク」や「ディープリップス」などの高額なオプションが溢れ、セラピストが耳から外す動作だけで興奮する若者が増えたのでございます」

男の習性なのか、隠されているものに興味を注ぐのでしょう。もちろん、そのメンズエステでもマスクを剥ぎ取るためにあの手この手を使う輩はいたと思います。

視覚の欲求は、いつの時代も変わらないということでしょうか。

アフリカのある部族の女性は、耳を隠すという風習があると聞きました。
結婚して初めて耳を見る男性は、異常に興奮し、ここぞとばかりに眺めた上、息を吹きかけ愛撫するとの話です。男の習性とは哀れと改めて感じる話でございました。

私が物心ついた頃にはすでに光触媒のスプレーができていましたが、そのスプレーを開発したのは唇を見たことのない世代であった、と曾祖父は話を続けました。

「性器を黒く隠した本があればバターを使って擦ったり、モザイクで隠されたビデオがあればモザイクを除去する機材を開発したり、服が透ける赤外線カメラを販売したり、メンズエステに通い、見えそうで見えない服を眺めて、触れそうで触れないセラピスト様に妄想を膨らませたり。昔から男は、欲望を追いかけまわしているのでございますな」

海上都市「グリーン・フロート」に到着すると、180SXタイプIIIは再び爆音を鳴らし、公道を走りはじめました。
タンポポ型の高層マンションを通り過ぎ、海上都市の島々を結ぶ橋を飛ばしています。
先程のメンズエステに行くと思っていた私は、胸を撫で下ろしました。

遠くに見えた宇宙エレベーターが徐々に近づくと
「少し若返りにいきましょうかね」と言い、さらにスピードを上げました。
101歳には見えない曾祖父は、定期的に宇宙旅行を楽しんでいるようでした。
「実は月に、いいメンズエステがありましてね…」
そう言うと、若さの秘訣を熱く語りはじめるのでございます。

「人間は1秒先の未来へと毎秒タイムトラベルをしています。若さの秘訣はタイムトラベルにあります。
そして、タイムトラベルしたいのであれば、毎秒進む速度を速めればいいのです。

アインシュタインの提唱した特殊相対性理論というものがありまして、空間と時間は一見違うようにみえて、実は同じなのです。
空間と時間が別々にあるのではなく、空間時間だということでございます。
この空間時間を光の速さで通過しますと、自分自身の周りだけ時間が遅くなります。

それに加えて、同じくアインシュタインの一般相対性理論というものがあります。
先程の空間時間は、熱量の多さによって捻じ曲がるのでございます。
それは、重力の重いところとそうでないところでは、時間の流れが変わってくるということでございます。
地球にいる方が時間の流れが速く、宇宙に飛び立つほど時間の流れが遅くなるのでございます。

もちろん、月くらいの距離と今人類の持っている移動速度では、何十年というギャップは生まれるわけではなく、宇宙空間の衛星で半年間過ごしたら、0.005秒くらい地上にいる人たちより若い程度でございます。
宇宙飛行士はわずかな「タイムトラベル」をしているのでございます。

常に地球の周りをグルグル周っているGPS衛星は、光の速さまでは行きませんが、速い速度で動いているので、地球の時間とは多少のズレが生じます。
そこには毎回修正された衛星時間があるのでございます。
光の速さの50%で動いても、実際はわずかな時間しかズレが生じないのです。
これが70%、80%、90%と変わりますと、急激に時間のズレが生じるのでございます。

大げさに言いますと、例えば20歳の時に光の速さで宇宙に飛び立って5年間宇宙で過ごしたとします。
当然、25歳になります。
そして地球に戻って同窓会に開いたら、地球に残っていた周りの同級生は70歳になっていることになります。

それは、光の速さで移動した結果、自分の周りの時間が遅くなり、地球にいた人たちとは違う時間の進み方をしているのでございます。
それが若さの秘訣でございます。宇宙旅行は最高でございますな」

笑顔の曾祖父はさらに続けました。

「そう考えると、過去には行けるのか?
例えば私たちが過去に戻って、ニコラ・テスラに交流電力の知識を与えたとします。
ニコラ・テスラは私たちに教わった知識で交流電力を発明していくのですが……。
それならば元々私たちが知っていたこの知識はどこから生まれたのか?
私たちは過去に発見したニコラ・テスラの交流電力を参考にしただけなのに?
交流電力の発祥元がなくなり、矛盾が生じます。

こんな感じで過去に戻るとパラドックスが生じますので、過去にタイムトラベルすることは不可能と判断する学者がとても多いのでございます。
これを可能にするのでしたら、過去の世界に戻った時点でそこは違う世界線と考えるしかないのでございます。
タイムトラベルをすることで、いくつもの世界が誕生するのでございます。

これは過去だけではなく未来もそうなります。
今からお風呂に入るパターン、ご飯を食べにいくパターン、テレビを観るパターン。
このようにいくつもの選択肢があって、その一つ一つを選ぶことによって違う世界が生まれるのでございます。
これはタイムトラベルよりもパラレルワールドになってしまいますので、その未来から過去に戻るのは不可能と言われております。

しかし、このようなお話もあります。
かつて人間を創り出した古き神々、アヌンナキが探していた単原子ゴールドはとてつもない成分で、これをうまく使用すれば覚醒して、マインドタイムトラベルが可能になると言われております。

幽体離脱や瞑想など、意識の領域なら過去と未来を行き来でき、肉体のタイムトラベルよりも可能性は高いのでございます。
現代の科学者…というより欲望と妄想の強い男の子たちに、研究の先にあるエクスタシーを見せれば実現可能で、宇宙開発の遅れも取り戻せるかもしれません」

そう言うと曾祖父は、宇宙エレベーター下の駐車場に停車させて、こう続けました。

「実は今現在、見ている風景や社会情勢は、瞑想の中のお話かもしれませんな」

つづきます……

 


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